大洪水前のムー人「エノク」と大洪水後のアトランティス人「トート」は、本当に同一人物なのだろうか。
トートは元々、エジプトの神の名で、ギリシア神話の女神「アテナ」とも同一視されている。
この時点で、「トート=エノク」説も疑ってみるべきだろう。
まず、エノクはノアの大洪水の700年前に生まれた人物で、約25メートルの身長を持っていた。
驚く事はない。
当時の人間は、それが平均的な身長だったのだ。
「見たんか!」と突っ込まれそうだが、発掘された写真の通りである。
驚く事はないと言っても、実際に見たら驚くだろう。
だが、アトランティス王トートは、いくら巨人族とは言え、25メートルも身長があったとは、とても思えない。
時は、約3400年前である。
もし、トートがそれだけの巨人であれば、もっと伝説になっているはずだ。
それに、トートが刻んだエメラルド・タブレットも、もっと巨人でなければおかしい。
それ以前に、トートの石棺はそんなに巨大ではない。
だが、エノクは天使「メタトロン」である。
身体のサイズを自由に変化させる能力があったとも考えられる。
トートは、トキの頭を持った姿や翼を持った姿で描かれ、飛翔する天使を象徴している。
もっと言えば、昇天したエノクを表現しているとも言える。
また、トートは知恵の神で、天文学や測量や建築を司り、『エメラルド・タブレット』には「トートがギザのピラミッドを造った」と、記されているという。
そうなると、「エノク=トート」である事を認めざるを得ない。
トートは、ヘルメスとも同一視されている。
ヘルメスとは、オリンポスの12神の一柱で、ゼウスに忠実な神だった。
アトランティス人はティターン族と同一視されていたのに、何故か王であるトートは、ゼウスに忠実なオリンポスの神と同一視されているのだ。
しかも、アテナと同一視されるトートだが、アトランティスと戦ったのは古代ギリシアの「アテナイ軍」だった。
この矛盾は説明不可能である。だが、神話に矛盾は付き物。
神話と歴史を重ねれば、更に筋の通らない矛盾が生じる事もあって当然だ。
ヘルメスは錬金術の祖とされ、トートも錬金術師だった。
そして、ギリシア神話の「ヘルメス」はローマ神話の「マーキュリー」に対応し、死神としての一面を持つことから、エジプト神話の「トート」とも同一視されているのだ。
実際に『ヘルメス文章』には、ヘルメスの別名として「トート」が記されている。
もはや、「トート=ヘルメス」を疑う余地はない。
更に、アラブの伝承では、エノクを「ヘルメス」と呼ぶ。
そして、エジプト神話の「トート」は、ヘレニズム時代にギリシア神話の「ヘルメス」と習合し、「ヘルメス・トリスメギストス」と呼ばれるようになった。
特に錬金術では、「トート・ヘルメス・トリスメギストス」と呼ばれる。
この時点で「エノク=トート=ヘルメス」が成立し、認めざるを得なくなる。
そして、その威光を受け継ぐ人物として、錬金術師ヘルメスが同一視された。
ここで注意しなければならないは、神としての「ヘルメス・トリスメギストス」と、人間としての「ヘルメス・トリスメギストス」が存在するという事である。
更に、エジプトの『ピラミッド・テキスト』では、トートを「三重に偉大」と表現している。
三重に偉大とは、どういう事か……。
『ヘルメス文書』によると、「トリスメギストス」は「三重に偉大な者」の意で、「神官、王、哲学者の3つのヘルメスを合わせた者」という意味だという。
14世紀のアラブ人歴史家アル・マクリージーは、著書『群国志』で次のように著している。
【第1のヘルメス】
星を読んで大洪水を予言し、ピラミッドを建設して「知識の書」を隠した。
【第2のヘルメス】
ノアの大洪水後のバビロンにいた人物で、医学や数学などに優れ、ピタゴラスの師でもあった。
【第3のヘルメス】
医学と哲学に精通し、都市計画をしたエジプト人で、『エメラルド・タブレット』や『ヘルメス文書』を残した。
つまり、ヘルメスの名を持つ者が3人いた事になる。
その正体は、恐らく次の通りだ。
「第1のヘルメス=エノク」
「第2のヘルメス=ゾロアスター」
「第3のヘルメス=トート」
いずれも、預言者であり王であり賢者であり、「三重に偉大な者」である。
そして「第3のヘルメス」こそが、アトランティス王「トート」である。
驚くべき事に(別に驚かないかも知れないが)、トートの石棺にはトートの遺体はなく、『エメラルド・タブレット』が入っていた。
これは何を意味するのか……。
もし、トートがエノクであれば、石棺など用意する必要はない。
エノクは、不滅の天使だからだ。
という事は、トートはエノクと同じく「昇天」した可能性が出てくる。
『エメラルド・タブレット』には、トートは「世々代々生き続ける」と刻まれているが、これこそ、トートが昇天した事を示しているのではないだろうか。
トートがトキの頭や翼を持った姿で描かれている事が、それを裏付けている。
或いは、「トート」の名乗りを継承する者が、代々続いていくという意味にも受け取れる。
事実、歴代のファラオには「トート」の名を冠する王が多い。
また、発明家の故・政木和三氏は、過去世でアトランティスの神官(トート)だったという。
知花敏彦氏も過去世でトートだったという。
トートの生まれ変わりが同時代に2人……。
だが、トートは昇天したはずだ。輪廻を解脱した天使である。
だが、これについては説明が可能だ。
輪廻を脱却した天使でも、啓蒙活動を目的に転生する事がある。
その時は、自分の分魂を転生させるのだ。
有名人ではサイババがそうだ。
それは、『日月神示』にも示されている。
「天使の霊が母体に宿り人民として生まれてくる事もあるぞ、末世にはこの種の降誕人が沢山あるそ」
つまり、霊的次元で「エノク=トート=ヘルメス」は繋がるかも知れないが、決して同一人物ではなく、人間界で適応する事は出来ないのだ。
だが、トートが「ヘルメス」の異名を持つという事は、霊的にエノクの系譜に属する事を意味し、「ムー人」という事になる。
また、昇天が事実であれば、紛れもなく「ムー人」にカテゴライズするべき人物である。
では、何故「アトランティス王」なのか。
恐らく、滅亡したアトランティスの王だったというだけの事に過ぎず、トート自身は、オコツトが定義する「アトランティス人」には該当しない。
それは、トートの功績を見ればよく分かる。
錬金術とは何か……。
それは「生命の樹」であり、オコツトが説く「シリウスA」と「シリウスB」の方向性を示すものである。
エノクはそれをピラミッドで表し、トートはエメラルド・タブレットで示した。
詳しくは改めて書くが、次は、ムーとアトランティスの文明の違いに迫ってみたい。