
反キリストだったヒトラーは、反ユダヤ主義の根拠として、ユダヤ・プロトコール(シオン賢者の議定書)を挙げ、アーリア人の原郷トゥーレ(北極星の支配下で氷に閉ざされた世界=アガルタ)の超パワーを手に入れようとした。
同じく反キリストだった出口王仁三郎も、「ユダヤ・プロトコール」を悪神の筆先と断定し、ムー大陸論を積極的に主張していた。
ユダヤ・プロトコールとは、ユダヤ人秘密結社「フリーメーソン」の、悪魔的な世界支配戦略を暴露した書物である。
だが、「フリーメーソン=ユダヤ人」ではなく、むしろフリーメーソンは、ユダヤ人の入会を拒否してきた歴史を持つ。
ユダヤ・プロトコールは、フランスで出版された『マキャベリとモンテスキューの地獄での対話』の盗作だと言われている。
この書物は、ナポレオン3世を「マキャベリ」に仮託させ、ナポレオン3世の非民主的政策と世界支配願望を批判した内容となっている。
「ユダヤ・プロトコール」は、ユダヤ人を貶める為に、マキャベリの部分を「ユダヤ人」に置き換えて、ロシアの秘密警察が捏造した偽書である事が判明している。
偽書ゆえに「悪神の筆先」などではなく、ユダヤ人やフリーメーソンの陰謀でもなかった訳だが、ヒトラーは次のように述べている。
「歴史的な意味で本物であるかどうかということは、私には関係がない。
内面的な真実は、それだけ一層、私にとって確固たるものとなる」

皮肉な事に、ユダヤ・プロトコールは、世界支配を目論むユダヤ系財閥に利用され、プロトコール通りの現実が展開している。
さて、王仁三郎が展開した「ムー大陸論」にも根拠はなく、イギリスの元陸軍大佐「ジェームズ・チャーチワード」の著書『失われたムー大陸』に触発されて、便乗したものだった。
その『失われたムー大陸』にも問題点が多々指摘されており、偽書といえば偽書なのだ。
チャーチワードは、1868年に陸軍大佐としてインドに駐屯の歳、ヒンドゥー教寺院に保管されていた粘土板『ナーカル碑文』によって、失われたムー大陸の存在を知ったという。
だが、当時の記録によると、チャーチワードなる人物がインドに駐屯した痕跡はなく、イギリス人がヒンドゥー教寺院の粘土板を解読したという事実も無根なのだ。
しかし、『失われたムー大陸』が偽書と言えども、全くの作り話ではない。

飛鳥昭雄氏の推理によると、『ナーカル碑文』を調査して解読したのは旧日本軍。
日露戦争終戦当時、同盟国だったイギリスから「チャーチワード」というエージェントを抜擢し、旧日本軍が得た古代文明の伝説とアイデアを吹き込んだという。
それを元に創作された物語が、『失われたムー大陸』なのだ。
問題は、チャーチワードがムー大陸の存在を裏付ける為に引用した数々の資料が、偽書だったり誤訳だったりした事にある。
しかも、残念なことに『ナーカル碑文』の内容は、『失われたムー大陸』の中から知る事が出来ない。
しかも、チャーチワードはアトランティスの伝説を参考にしたらしく、両者の内容は酷似しており、どこまでが本当の内容かは定かではない。
しかも、太平洋に大陸が沈没した痕跡は、科学的に認められていない。
果たして、ムー大陸とは一体……。

詳細は飛鳥昭雄氏の著書『失われたムー大陸の謎とノアの箱舟』に書かれているが、ムー大陸伝説の本質は大陸の沈没ではなく、大洪水伝説にある。
チャーチワードはムー大陸の存在を立証する為、イースター島をはじめ、ポリネシア、ミクロネシア、メラネシア、更にはオーストラリアや南北アメリカを調査し、数々の共通した神話や文化を発見した。
それらは「汎太平洋諸島文化圏」であり、原住民であるポリネシア人、ミクロネシア人、メラネシア人、アボリジニ、ネイティブ・アメリカンなどは、人種的にみなモンゴロイド系であり、同じ伝説や文化を共有していて当然といえば当然である。
更に、我が国でも与那国島の海底遺跡など、沖縄周辺の海底で巨石建造物の発見が相次いでいる。
また、台湾でも同様の海底遺跡が発見されているが、沖縄の諸島は中国大陸と陸続きだった為、同一の文化圏に属していた事は間違いない。
沖縄で発見されたロゼッタ・ストーン(線刻石板)は、『ナーカル碑文』の線刻画と酷似しているが、沖縄ロゼッタ・ストーンの解読により、マヤ人が渡来していた事が判明している。
沖縄周辺の海底遺跡が、マヤやインカなどの巨石神殿と酷似しているのは、その為なのだ。

では、『ナーカル碑文』を作成した古代人は何者か……。
私の考えでは、シュメールからインド亜大陸に移住して原住民となった「ドラヴィダ人」である。
以前、神仙組1に詳述したが、ドラヴィダ人が太平洋諸島や南北アメリカ、オーストラリアやニュージーランド、そして日本列島に散らばり、環太平洋文化圏を構築したのだ。
そう考えると、『ナーカル碑文』に記されているという古代の大洪水の記録は、「ノアの大洪水」を指している可能性が高くなる。
チャーチワードは、ムー大陸の沈没を裏付ける為、ハワイやイースター島など、ポリネシアの大洪水伝説に注目し、また、北米インディアンの大洪水伝説との共通性から「ムー大陸の沈没」を主張した。
しかも、『ナーカル碑文』に記された天地開闢の内容と、『旧約聖書』の天地創造の内容の類似性を指摘。
ムー大陸の歴史がインドからエジプトに伝わり、それをモーゼが書き留めたのが「創世記」だという。

つまり、ムー大陸はノアの大洪水以前の大陸という事になるが、それまでの地球の大陸は一つの塊だった事が判明している。
それはアトランティスをも含む巨大な陸塊で、超大陸「パンゲア」という。
従って、現在地球上に存在する全ての大陸と島々が、ムー大陸だったという事になる。
「ムー」という名称はチャーチワードの誤訳による造語だが、チャーチワードによると、ムーの王の名を「ラ・ムー」という。
ムーは祭政一致の社会を築いていた為、ラ・ムーは王であると同時に神官でもあり、その正体は「ノア」である。
そして、ムー人たちは「ナラヤナ」という絶対神を崇拝していたという。
注目すべきは、ナラヤナは「7つ頭の蛇」であり、その姿はまさに黙示録の「ルシファー」である。
インドやエジプトで蛇が神聖視されている理由は、ナラヤナにルーツがあると考えて良いだろう。
また、ヒンドゥー教のヴィシュヌと一緒に描かれるアナンタも、「ナラヤナ」以外の何者でもない。
ノアの大洪水以前の地球「ムー大陸=超大陸パンゲア」では、ルシファーが人類共通の絶対神だったのだ。

だが、否定的な立場で見ると、全人類が「ルシファー」を絶対神としていた事が神の怒りに触れ、地球全土が大洪水で水没させられたと考える事も出来る。
沖縄のロゼッタ・ストーンの解読によると、「かつて栄えた偉大なる王の宮殿は、忌まわしき蛇の力によって、海の底へ沈んでしまった」という内容の石板があるらしい。
確かに、黙示録の7つ頭の竜「ルシファー」も、天変地異を起こして地上を破滅に導くサタンとして描かれている。
それは、『旧約聖書』でサタンと同一視される、水害を起こす竜「レヴィアタン」でもある。
やはり、ルシファーは悪魔なのだろうか……。
しかし、ルシファーの預言者だったラ・ムー(ノア)は、義人ゆえに大洪水から救われたという事も忘れてはならない。